
アパート経営において「利回り」という言葉を耳にしたことがある方も多いでしょう。
しかし、その意味や計算方法、投資判断における重要性を正しく理解している人は少なくありません。
ここでは、利回りの種類や目安、最低ライン、計算方法に加え、改善のポイントや確認時の注意点を解説します。これから不動産投資を始めようと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
1. アパート経営における利回りとは
利回りは、投資額に対する収入の割合を表す指標です。
ここでいう収入は、単年度の収入を指します。
アパート経営において利回りは、投資対象の採算性や収益性を評価する指標として重要視されており、意思決定を行う前に必ず確認しておくべきポイントです。
利回りには、以下の3種類があります。
種類 | 概要 |
表面利回り(総投下資本総収益利回り) | 経費を考慮せず算出する利回り。簡単に計算できるが正確性は低い |
実質利回り(総投下資本純収益利回り) | 諸経費を考慮して算出する利回り。計算はやや複雑だが、表面利回りより正確性は高い |
自己資本手取り額利回り(キャッシュ・オン・キャッシュ) | 自己資金に対する現金手取り額を表す指標。基本的には、他の金融商品と比較する際に用いられる |
利回りは投資物件の一側面を表す指標にすぎません。数値が高ければ必ずしも良い投資物件というわけではなく、家賃水準や購入価格、立地、入居需要など他の条件も踏まえて総合的に判断する必要があります。
2. アパート経営の利回りの相場・目安
アパート経営の利回りの相場・目安を仮に5%ぐらいとしておきましょう。
5%と聞くと、2,000万円の不動産を購入した場合、年間の家賃収入が100万円。
そのぐらいだったら自分でもできそう、と思う人もいるかもしれません。
しかしアパート経営には、空室や金利上昇、家賃下落・滞納、地震や火事などの自然災害などさまざまなリスクがあります。
また実際すべてのアパートの利回りの相場・目安が5%なわけではなく、アパートの築年数や立地などによって利回りの相場や目安も変わってきます。
例えば都内の築10年未満のアパートは築20年以上のアパートに比べて利回りが低い傾向にあります。
というのも、新築を含む築浅アパート(とりわけ都内)は物件価格が高いため実質利回りが低くなりやすいのです。
また、都心より郊外のほうが物件価格が安いため利回りは高くなる傾向にありますが、その分入居者の確保には工夫が必要です。
また利回りは低くても、立地条件が良いなど購入しておきたい物件はあります。
とくに不動産投資初心者は、利回りは高いがリスクも高い物件より、利回りはやや低いがリスクも低く安定した収益が見込める物件を購入したほうが安心です。
利回りは高くても、旧耐震基準で建てられた物件や、管理費・修繕積立費などが高い物件などは避けたほうが良いかもしれません。
また、利回りはあくまでも目安であって保証されるものではありません。
もちろん、あまりにも利回りの低い物件を購入する必要はありませんが、利回りが高いからといって、とくに調査することもなく物件を購入するのはやめておきましょう。
2.1土地の有無でも利回りの目安は異なる?
利回りの目安は、土地の有無によっても変わります。建築費だけでなく土地代を含めるかどうかで投資額は大きく変動するため、当然ながら利回りの数値も異なります。
2.2 アパート経営のおすすめ空室対策とチェック項目とは
利回りを高くするためにも、空室のリスクを減らしたいという方はいらっしゃるでしょう。
そんな方必見。
こちらの記事では、アパート経営の空室対策とチェック項目をご紹介しています。
気になる方はぜひご参照ください。
3. アパート経営の利回りの最低ライン
アパート経営の利回りの最低ラインは3%です。
このラインを下回ってしまうと、予測できなかった事態などに直面したときに自己資金から補填しなくてはならなくなるなどの弊害が出てくる可能性が高いです。
ただし、アパート経営の利回りの最低ラインは投資方法などによって異なります。
たとえ利回りが低くても、永く家賃収入を得たいのであれば、入居者ニーズの高い駅近や都心の物件に投資するのもいいでしょう。
逆に売却益をメインに考えるのであれば、利回りよりもすぐに買い手がつくようなアパートを購入したほうがいいと思われます。
節税目的でアパート経営を行うのであれば、低利回りであっても特に問題ありません。
たまに売却益をメインに考える人のなかには、“投資利回り”という考え方を持ち出す人がいます。
投資利回りは、初期投資に対しての利回り。
例えば、500万円の自己資金を投じて、7500万円のアパートを購入したとします。
7,000万円分は30年ローンで返却します。
アパートの家賃収入は毎月のローン返済額を除いて、12万円とします。
年間の家賃収入は12万×12カ月で144万円。そこから、年間の経費を除いて80万円だとしましょう。
80万円の家賃収入が入るということは、最初の自己投資金500万円は6年ちょっとで回収できることになります。
その時点で、ローンの残債である5,600万円以上で売却すれば、キャピタルゲインが得られるという考え方です。
しかしこの“投資利回り”という考え方をする場合は、実際に数年後にローンの残債額以上で売却できる見込みや、空室リスク・家賃下落リスクなども考えておく必要があるでしょう。
キャピタルゲインをメインに見据えている不動産投資会社の営業担当者はこのような利回りの計算の仕方を勧めることがありますが、長期的にアパートを保有したいと考えている人にはおすすめできません。
アパート経営は不労所得を得られたり、生命保険の代わりになったり、節税効果があったりなどさまざまなメリットがあります。
そのなかでもとくに自分が重視しているのは何か。
見極めたうえで、適切なアパートを入手することをおすすめします。
4. アパート経営の利回りの計算方法
アパート経営における利回りには“表面利回り”と“実質利回り”があります。
それぞれの計算方法を見ていきましょう。
4.1 表面利回りの計算方法
表面利回りは、不動産の購入価格に対して空室がない状態での年間の家賃収入はどれくらいかを考えたうえで計算する利回りのこと。
表面利回りの計算式は以下となります。
◆表面利回りの計算式◆
表面利回り=満室の状態での年間家賃収入額÷不動産の購入価格×100
例えば、以下の条件の場合の表面利回りの計算方法をお伝えします。
部屋数:10室
家賃:月8万円
物件価格:1億2,000万円
1億2000万円で購入した物件の、年間の家賃収入は8万×10室×12か月のため、960万円となります。
960万円÷1億2000万円×100なので、利回りは8%となります。
表面利回りは経費などが除外されているため、あくまで目安でしかありません。
表面利回りが高すぎる物件は、修繕費がかさむなど何かしらの問題を抱えていることが多いので注意が必要です。
また安いアパートは表面利回りが高いことが多く、飛びつきたくなりますが、空室が出る可能性が高く、大損してしまうことも。
入居者が見つからず、家賃を下げて人を確保したものの、収益が上がらず赤字になってしまうケースもあります。
なぜ表面利回りがこんなにも高いのか。
その理由を調査し、単純な表面利回りの良さに惑わされて物件を購入しないよう気をつけましょう。
4.2 実質利回りの計算方法
実質利回りは、表面利回りに対して経費などを加味したうえで実際にどれくらいの収入を得られるかを算出するのに使われる計算式です。
以下の計算式で求められます。
◆実質利回りの計算式◆
実質利回り=(1年間の満室時の家賃収入-年間の維持管理費などの経費)÷(不動産の購入価格+購入の際にかかった諸経費)×100
例えば、以下の条件で実質利回りを計算してみたらどうなるのでしょうか。
部屋数:10室
家賃:月8万円
ランニングコスト:年間200万円
物件価格:1億2,000万円
購入時諸経費:400万円
年間の家賃収入は10室×8万円×12カ月で960万円。
しかしランニングコストとして、200万円が引かれるため、760万円。
そこに物件価格と諸経費を足した1億2,400万円で割ると、約6%の利回りになることが分かります。
物件購入の際にかかる諸経費には、仲介手数料、登記費用、固定資産税・都市計画税・不動産取得税といった税金、印紙代等が含まれます。
また物件の維持管理費などの経費には、光熱費、修繕積立費、リフォーム費、損害保険料、固定資産税・都市計画税、管理費などがあります。
アパート経営において一番大事なのはこの実質利回りです。
都内では実質利回り6%、地方では10%ぐらいが目安といわれています。
さらにより実質的な利回りを計算するのであれば、空室率や家賃下落率についても考慮する必要があります。
例えば、そのときの時点空室率は空室戸数÷営業物件戸数×100で、稼働空室率は空室日数÷(営業物件戸数×365日)×100といった公式を利用することで算出できます。
家賃下落率は、周辺の似たようなアパートの家賃の推移を調べて、割り出していきましょう。
築年数に応じて周囲のアパートはどのように家賃を変動させているのか。
それを参考に、自分のアパートの今後の収入も考えていきます。
自分で計算するのは難しいと感じる場合は、シミュレーションサイトを利用したり、プロに相談したりするのも一つの方法です。
4.3 自己資本手取り額利回りの計算方法
自己負担額に対して、どのくらいの利回りが発生しているかを知りたいときに使用する計算方法です。
ほかの投資と比べて利回りが高いか低いかを判断するときに利用します。
以下の計算式で求められます。
◆自己資本手取り額利回りの計算式◆
自己資本手取り額利回り=現金手取り額÷自己資本×100
例えば、以下の条件で自己資本手取り額利回りを計算するとどうなるのでしょうか。
部屋数:10室
家賃:月8万円
ランニングコスト:年間200万円
年間借入返済額:480万円(30年ローン)
物件価格:1億2,000万円
購入時諸経費:400万円
自己資本:3,000万円
年間の家賃収入は10室×8万円×12カ月で960万円。
そこから、年間のランニングコスト(200万円)と借入返済額(480万円)を引きます。
自己資本は3,000万円であるため、自己資本手取り額利回りは約9%となります。
アパート経営はほかの金融商品などに比べて利回りが高い傾向にあります。
他の投資に比べて、同じ自己資本額でどれくらいのリターンを得られそうか比較したいときは、自己資本手取り額利回りを使って計算するのも一つの方法です。
また、この自己資本手取り額利回りを計算すると、元本を何年ぐらいで回収できるかが分かります。
この場合、3,000万円の自己資金を約11年で回収することができます。
5.利回りを確認する際の注意点
利回りを評価する際は、以下の点に注意が必要です。
5.1 実質利回りで計算する
アパートの採算性、収益性を評価する場合は実質利回りを用いましょう。
評価の際に表面利回りを用いてしまうと、不動産取得税や固定資産税などの諸経費を考慮しないため当該物件を正確に評価できません。
条件によっては、投資用物件の印象が変わることもあります。
5.2 修繕費を差し引いた上で計算する
アパート経営では、今後、発生する修繕に備えて修繕費を積み立てておくことが一般的です。
利回りは、採算性や収益性を正確に評価するため、正確に採算性を評価するためには、修繕費を見込んだうえで利回りを算出することが大切です。
参考に、修繕内容と発生時期の目安を紹介します。
修繕内容 | 時期 |
軽微な修繕(設備の交換など) | 5~10年に1回 |
大規模な修繕(外壁・屋根塗装など) | 10~15年に1回 |
具体的な修繕費用はケースで異なります。
5.3 家賃収入が下がったケースを想定する
原則として、築年数とともにアパートの家賃は低下します。
地域の中で相対的に古くなると、家賃以外の面でアピールしにくくなるためです。
経年劣化が家賃に与える影響は築年数などで異なります。
将来の賃料下落を想定して、利回りを評価することも大切です。
5.4 金利が上がった場合を想定する
投資用アパートを購入するため、アパートローンを利用する方が多いでしょう。
アパートローンの金利は、以下の2つにわかれます。
種類 | 概要 |
変動金利 | 市場金利にあわせて金利が変動するタイプ |
固定金利 | 契約時の金利が返済終了まで続くタイプ |
変動金利を選択すると、返済期間中に金利が上昇して返済額が増える恐れがあります。
返済額が増えると収支に悪影響を及ぼすため、将来的な金利上昇も想定して利回りを確認しておきましょう。
6.アパート経営の利回りを上げるためにできること
以下の点を意識すると、アパート経営の利回りを改善できる可能性があります。
6.1 空室対策を講じる
空室対策を行うと、年間家賃収入額が増えるため、(年間家賃収入額を総投下資本で除して求めます)アパート経営の利回りは高まります。
参考に、主な空室対策を紹介します。
【空室対策の例】
- 物件の立地にこだわる
- ターゲットに好まれる設備を導入する
- 防犯対策を充実させる
投資用アパートの中には、あらかじめ空室対策を講じているものがあるため事前にチェックしましょう。
6.2 長期の需要が見込まれる立地を選ぶ
原則として、アパート経営は長期的なビジネスです。
10年以上、継続することが少なくありません。
長期的な需要を見込める立地を選択することが大切です。
以下に、条件のよい立地の例を紹介します。
【条件のよい立地】
- 駅から近い
- 近隣に大きな会社、工場がある
- 現在、開発中、または今後開発予定
上記を参考に、条件がいい立地の物件を探すようにしてみてください。
6.3 間取りのタイプを検討する
ターゲットにあわせて間取りを選択することも重要といえるでしょう。
ターゲット別に、相性のよい間取りを紹介します。
ターゲット | 相性のよい間取り |
単身者 | 1R、1K |
カップル | 1DK、1LDK |
ファミリー | 2LDK、3LDK |
単身者向け間取りは㎡あたりの賃料が高く収益性を重視する場合に有効ですが、必ずしもすべてのケースに当てはまるわけではありません。たとえば、駅から遠い、コンビニが近くにないなど、利便性が低いエリアは単身者を効率よく集められない恐れがあります。
土地との相性も踏まえて、間取りを考えることが大切です。
6.4 付加価値をつける
アパートに付加価値をつけて、競合物件と差別化を図ると、空室を減らしやすくなります。
具体的なアイデアは以下のとおりです。
【付加価値をつけるアイデア】
- 建物のデザインにこだわる
- アクセントクロスで部屋をお洒落にする
- 宅配ボックスを導入する
- 防犯シャッターを導入する
- 無料Wi-Fiを導入する
紹介した付加価値が付いている物件を選ぶこともおすすめです。
6.5 適切な管理形態を選ぶ
目的に応じて管理形態を選ぶことが重要です。
管理形態は、大きく分けて次の3種類があります。
種類 | 概要 |
自主管理 | オーナーが物件を管理する方法 |
全部委託管理 | 管理会社にすべての管理業務を委託する方法 |
一部委託管理 | 管理会社に一部の管理業務を委託する方法 |
自主管理は委託費用が発生しないため、一見すると利回りが改善しやすいように見えます。
しかし、実務負担やトラブル対応のリスクが高くなるため、管理会社に委託するのが一般的であり、安心して運用を行うためには専門業者のサポートを受けることが望ましいでしょう。
利回りは重要だけど、重視しすぎないことが大切
利回りについて分かりましたか?
不動産投資における利回りは目安にはなりますが、重要視しすぎてはいけません。
たとえ高利回りの物件だったとしても、入居者が見つからなかったり、修繕費が高かったりしたら、利益を出すのが難しくなってしまいます。
不動産投資をする際は、利回りに限らず、さまざまな条件を見極める必要があります。
利回りも指標の一つとしてとらえつつも、利回りの高低に振り回され過ぎないよう気をつけましょう。
不動産投資の際に利回りと一緒に考えたいのが、経費率と損益分岐点です。
言葉自体は聞いたことはあるけれど、どういうものか分からない方もいると思います。
下記記事ではそれぞれ経費率と損益分岐点について解説していますので、こちらも参考にしてください。
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この記事の監修
マリモ賃貸住宅事業部
不動産事業を50年以上続けてきたマリモが、お客様目線でお役に立つ情報をお届けしています。不動産投資初心者の方に向けての基礎知識から、経験者やオーナー様向けのお役立ち情報まで、幅広い情報の発信を心がけています。部内の資格保有者(宅地建物取引士、一級建築士、一級施工管理技士、二級ファイナンシャル・プランニング技能士、管理業務主任者など)が記事を監修し、正しく新鮮な情報提供を心がけています。
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